第1回:避難安全検証法の「形骸化」を防ぎ、真の安全と価値をデザインする

「まちづくり価値研究所」のブログ、記念すべき第1回目は、建築設計において重要な手法である「避難安全検証法」をテーマに掲げます。

私たちは、単に法規をクリアするだけでなく、その建物が将来にわたって使いやすく、安全であり続けるための「価値」を研究しています。その視点から、現在の避難安全検証が抱える課題と、私たちが提案する解決策についてお伝えします。


1. そもそも「避難安全検証法」とは何か?

通常の建築設計(仕様規定)では、火災に備えて排煙窓や防煙垂れ壁の設置が義務付けられています。しかし、実際には高い位置にある窓の紐が什器に隠れて操作できなかったり、垂れ壁がデザインの邪魔になったりすることも少なくありません。

そこで、「火災時に煙が降下してくる前に、全員が安全に屋外へ避難できること」を高度な計算によって証明するのが「避難安全検証法(性能規定)」です。これを行うことで、建設コストの削減や、開放的で自由度の高い空間設計が可能になるという大きなメリットがあります。

2. 現場で起きている「計算書の形骸化」という問題

しかし、現在の建築業界では、この検証法が「単なるコストダウンやデザインのための計算ツール」に成り下がっている懸念があります。

  • 設計者の理解不足: 計算を外部の専門業者に丸投げし、設計者自身が「なぜその扉が必要なのか」「どのルートが避難の要なのか」を把握していないケースが増えています。
  • 運用段階のミスマッチ: テナントの入替や内装変更の際、本来は再検証が必要ですが、建物所有者がその重要性を理解していないのが実情。いつの間にか「避難できない仕様」に変わってしまうリスクがあります。
  • 利用者の視点: そもそも火災時に、施設従業員が排煙窓の操作方法を正しく理解し、実行できるでしょうか?

どんなに優れた計算書があっても、現場の設計者や所有者、そして利用者がその内容を理解していなければ、万が一の時に命を守ることはできません。

3. 「避難安全検証 説明書」の作成へ:ビープロジェクトの挑戦

私たちは、避難安全検証を「提出して終わり」の書類にはしたくないと考えています。本制度が制定された黎明期から本手法を実務に活用してきた私たちは、「建築ピボット避難検証法」などの検証ソフトを駆使し、数多くの複雑な空間を解析してきました。

しかし、AIやソフトによる自動化が進む今だからこそ、私たちは「ソフトを使いこなす知恵」が重要だと考えています。単に数値を打ち込むだけの作業ではなく、制度開始当初から積み上げてきた知見をもとに、数値の裏側にある「煙の挙動」を読み解く。このプロの視点があるからこそ、実効性のある安全デザインが可能になります。

私たちは、検証によって導き出された避難ルートや扉の仕様、制約事項を、誰にでも分かりやすく可視化した「避難安全検証 説明書(取扱説明書)」の作成を提唱します。
● 所有者へ 建物の価値を守るために、定期的な点検と同じ感覚で、検証内容の維持管理をサポートします。
● 設計者へ AIによる自動化が進む時代だからこそ、設計者自身が「避難のロジック」を深く理解し、責任を持って空間を構築する姿勢を重視します。
● 利用者(テナント)へ バックルームへのアクセスや障害者への配慮など、実効性のある避難計画を具体的に提示します。

4. 未来に向けた研究ポイント

今後、私たちは以下の点に重点を置いて研究を続けていきます。

  1. 包括的なプロセス: 設計施工段階から建物全体を俯瞰した避難安全計画を策定する。
  2. 実効性の検証: 小部屋の配置や歩行距離、防火シャッターの連動など、実際の火災時の煙の挙動に基づいた最適な仕様を追求する。
  3. 教育と啓蒙: 設計者の理解を深めるための研修を実施し、建物の質と安全性を底上げする。

安全こそが、まちづくりの「価値」の根源

「避難安全検証は面倒なもの」という勘違いを払拭し、建物のポテンシャルを最大限に引き出しながら、確かな安全を担保する。これこそが、私たち「まちづくり価値研究所」が目指す建築のあり方です。

これまで検証に触れてこなかった設計者も、自ら手を動かし、疑問を持ち、改善を繰り返す。この地道な研究の積み重ねが、次世代の安全なまちづくりに繋がると信じています。

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